ー緑に支えられている私たち人間ー
中村桂子のつぶやきー第十八回 2023.5.24
<京都府綾部町でいろいろ勉強しました>
人口3万人の、いわゆる限界集落と呼ばれるところがたくさんある山間の町です。
それはすなわち水源にあるということですから、それを活かすというか、逆手に取るというか、「水源の里」として元気よく暮らしている魅力的な町なのです。
若い移住者が集落に溶け込んでいる様子、おばあさん3人組が美味しい栃もちを作って売り出しているところなど興味深いことはたくさんありましたが、今回書くのは「バラ園」です。
咲き誇っている様々なバラの一本一本にバラの名前と一緒に人が書かれた名札が小さく立っています。3000円出すと、苗一本と必要な肥料などが渡されます。それを植えて自分で面倒を見るのは大歓迎、でも忙しかったり遠かったりしてなかなか来られなくても大丈夫。ヴォランティアが世話をしてくれます。こうして見事なバラ園ができ、町の人はもちろん、外からも楽しみに来る方のある場になっているのです。
中央にあるのが「アンネ・フランクのバラ」、平和のシンボルとして大事にされています。
この町は、憲章の最初に「平和を願い祈りのある町にしよう」とあると知って、素晴しいと思いました。
自然の中にある人間として地に足をつけて生きたいと思っている一人として、とてもよい生き方をしている人たちの集まりだと感じたのです
みんなでつくるバラ園。私たちにもできることだなあと思ったのです。つながりを作る最も素敵な方法だなあと。
お考えお聞かせください。
中村桂子のつぶやき─第十七回 2023.1.18
<水と風(空気)の道をつくる─―確かに変わりました>
1月14日の土曜日、映画『杜人』の主人公である矢野智徳さんが、我が家の庭をみて下さいました。ここに暮らすようになって30年ほどになりますが、なにか自然の質が落ちているような気がして気になっていました。ハチやチョウやクモなどの小さな生きものたちが消えたり少なくなったりしていますし、植物たちもよく茂っているようでいながらどこか気になるという状態なのです。昨年対談の機会をいただいたこともあり、思い切ってお願いしました。
トラストの小さな森の活動を手伝って下さっている「グリーンワークス」の方たちが研修をしたいという希望もあり、20人近い人が朝9時半から夕方5時までの実習です。
私たちが持つのは鎌と移植ゴテ。風の道を作るには、木を揺らしてゆらゆら揺れる枝先を鎌で切り、風を通します。切る場所は風の揺れに合わせます。地面は移植ゴテを突き刺して水と風の道をつくります。土の上に置いた枕木が腐ってきているのを見て、ここはまったく風と水が通っていないから、悪い微生物たちが増えているので、ここに生えている樹も弱っている。よい土にするには道をつくらなければと……積んであるレンガを思い切りよく壊す……最初はびっくりしました。えっ、それってあり? もちろん、それはどうしてもはずさなければならないところだけです。次いで庭のあちこちに小さな穴を掘り、そこに炭と枝を入れることで、水と風の道を作る作業が続きました。
枝先を風の揺れに合わせて伐っておけば、その枝の様子に合った根が伸びていくのだそうです。土の上と下で呼応していることは分かっていても実際に手をかけて実感するのは、ただ頭で分かっているのとは違います。
作業が終わった時、確かに何かが変わっているのを感じました。具体的に説明するのは難しいのですが、これまでより土に眼が向くようになりましたし、小さなコテと鎌でちょっと手を加えることで自然は生き生きすると実感できます。今最も大事なのは土であるということは、最近強く感じていることですが、身近での体験で、体で分かった気分です。崖線に暮らす者として、大事なことを勉強しました。機会がありましたら見にいらして下さい。
実は、中川さんから神宮外苑問題について書いたらどうですかというメールをいただきました。本当に大事なことですが、ここまで問題点が明らかになっても平気で高層ビルを建てる方向に動く人々がいるということに絶望しかないという状態になってしまいました。それがよい選択だと思っているのか、とにかくお金が動くことをよしとしているのか。あまりよいことが書けませんのでしばらく考えたいと思っています。お考えお聞かせください。
中村桂子のつぶやき 2021年、2022年はアーカイブに移動いたしました。
*2021年6月5日「崖線みどりの絆・せたがや」会長の中村桂子のコラムが始まりました。「緑に支えられている私たち人間」をテーマに、不定期に掲載いたします。どうぞお楽しみに。